かなり大げさで固いテーマですね。これはどのような背景があったのでしょうか?
先日、旅館組合と会社の社会活動の一環で、地元の高校生や中学生に温泉について講演をする機会がありました。そのときに思ったことを語らせていただきます。
そのような活動もされているのですね。どんな内容をお話したんですか?
熱川温泉の生い立ち、温泉の特徴など、温泉と地域とのかかわりなど、温泉を中心として多岐に渡りました。こちらは、その時の写真です。熱川温泉のお湯かけ弁財天という温泉が自噴するスポットでお話をいたしました。
そうなんですね。子どもたちの反応はどうでしたか?
自分たちの身近にある温泉について、興味津々でした。このような自然からの恵みが近くにあることに関して、驚いており、その姿を見て、温泉に携わる私も感無量でした。しかし、ある違和感がありました。
地域の子どもたちにそのような機会を与えることができて素晴らしいですね。その違和感とは何でしょう?
「熱川の温泉って入るとどんな感触なんですか?」という質問をいただきました。つまり、熱川の温泉に入ったことがないのです。そこで私は、「この中で熱川温泉の温泉に入ったことがある人はいますか?」と聞きました。すると、温泉に入ったことがあるのは、中学生では、6人に1人、高校生では10人に2人でした。私が小学生の時には、入ったことがない人がその数でしたので、その数に驚愕を覚えざるを得ませんでした。
こんなに近いのに意外ですね。数十年で入浴率がここまで下がってしまったのはなぜなんですかね?
そうですね。原因はいくつかあるかと思います。そもそも子どもは、一人で温泉に入ることは中々ありません。そのため、子どもたちの親世代の温泉離れは一つの原因だと思います。なぜ、親世代に温泉離れをしているかについては、昔に比べて、旅館のスタイルが変化したことがその一因に挙げられます。
旅館のスタイルはどのように変わったのですか?
昔は団体客をメインで取り扱っていたため、日帰り入浴、地域の方々も利用できる大浴場がメインでした。しかし、個人客をメインに扱う時代になってからは、お部屋のお風呂の充実など、プライベート感を追求する旅館が増えてきました。大浴場を壊し、貸切風呂を作られた旅館さんもいらっしゃいます。
旅館のスタイルの変化も大いに関係してそうですね。今後は、この入浴率の低下はどうなっていくのでしょうか?
このままいくと、少子高齢化も相まって、今から十年後はさらに低下していきます。更に、この問題は、おそらく熱川温泉だけの問題ではありません。伊豆の他温泉、他の県の温泉地でも同じようなことが起こっていると想定できます。温泉は、温泉地にとって誇りです。それを知らずに育つと、郷土愛も育まれませんし、地域にUターンしてくる人も減ってくるでしょう。地域単位でみると少子高齢化に拍車をかけてしまいます。更に、日本の観光業を支える、日本の温泉地全土でこのようなことが起こってしまうと、日本の観光業衰退という事態も免れません。
これはなんとかして食い止める必要がありますね。何か対策はありますか?
完全なる答えはありませんが、試行錯誤しながらすぐ対策をする必要がありますね。この、「すぐ」、というのがポイントです。例えば、熱川温泉では、旅館で日帰り温泉ができる、湯めぐりチケットを始めました。そして、私が担当した地元の学校での温泉の講演も、継続していくべきでしょう。このゆもりびとの製品も実は、温泉離れをしている世代に温泉の良さを手軽に身近で感じてもらいたいという想いの下、製造を開始いたしました。しかし、一つの施設、一つの温泉地では限界があります。旅行会社、地方公共団体の力を借りながら、広い範囲で危機感を持ち、試行錯誤しながら対策を講じていく必要がります。